おはようございます!加藤浩晃です。
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加藤浩晃のヘルスケアイノベーション通信 vol.087|2026年8月20日(木)
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今日は、最近増えてきている外来の出来事からでメルマガを書こうと思います。
外来をしていると「先生、睡眠スコアがずっと60点台なんですけど、大丈夫でしょうか」と聞かれる場面が増えてきました。
患者さんはApple WatchとかOura Ringをしていて、毎晩の数字がスマホにたまっています。
ただ正直に言うと、その数字を診療でどう扱うか医師の側にまだ共通の答えがありません。
スコアが低いから何かをするというような基準はどこにもないのです。
今月8月3日に、まさにこの悩みに正面から向き合った論説がJAMAに出ています。
今日はこれを読んでいこうと思います。
それでは、今日のニュースです!
◆Sorting Results of Unknown Significance—A Framework for Clinicians Navigating Wearable Data in the AI Era(JAMA)
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2852444
◆Wearable Devices and Data Sharing in the US(JAMA Network Open)
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.17733
まず、いまのウェアラブルデバイスの現状を数字で確認していきます。
米国の全国調査によると、ウェアラブルを使う成人は2020年の30.2%から2024年には41.1%へ増えました。
使う人の約半分は毎日使っていますが、そのデータを医師と共有してもよいと考える人は81.3%から73.4%へ減り、実際に共有している人は14〜19%にとどまります。
測る人は増えたのに、データは診察室には届いていない、もちろん活用されていないということです。
論説(Perspective論文)を書いたのは、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)内科の医師たちです。
彼らはウェアラブルの数字を「意義不明の結果(results of unknown significance)」と名づけました。
遺伝子検査で、見つかったものの病気と関係するか判断できない変異を「意義不明のバリアント(VUS:variants of unknown significance)」と呼びますが、それになぞらえた言葉です。
睡眠のスコアも皮膚温の変化も、測れてはいるが、診療で何を意味するかまだ決められない。
まだ扱いの決まっていないデータに、まず名前を付けたということです。
AIを使えば、この山のようなデータから新しい生理のパターンを見つけたり、医療者の確認の負担を減らしたりできる可能性があります。
ただ、いまのアルゴリズムはメーカーごとの中身の見えない箱であって、
「臨床で役立つことより利用者が使い続けたくなることに最適化されている場合がある」と論説は指摘しています。
そして、どのデバイスでも横断的に活用される基準と共通の言葉が必要だと訴えています。
ここが、今日いちばん考えたい点で、この論説を今日のメルマガで取り上げたポイントです!
「医療に必要なデータ」と「消費者が見たいデータ」は違うんです!!
Apple WatchやWHOOPやOuraは、睡眠スコアや回復スコアのように、毎朝見たくなる数字を作ることに長けています。
それ自体は製品として正しいのですが、医師が知りたいのは別のことなんです。
その数字は治療の判断を変えるのか、どの値になったら介入すべきなのか、偽陽性はどれくらいあるのか、他社の機器の数字と比べられるのか、そして、患者さんの結果は良くなるのかということが知りたい。
使い続けたくなることと、診療に役立つことは同じではありません。
8月8日のFunction Healthのメルマガで
「測れるものを全部測ることと健康寿命が延びることは別だ」と書きました。
今日の論説は、同じ問題をウェアラブルの側から言っています。
データの量はもう足りていて、足りないのは、その数字を医師が行動に変えられる形への翻訳です。
だから、ウェアラブルの次の競争はセンサーの精度ではないと思います。
心拍も睡眠も、どのデバイスもそれなりに測れるようになりました。
差がつくのは、測った数字を「介入の基準と偽陽性の率が分かる」「医師が動ける」情報に変換できるかです。
8月4日に書いたSamsungの無呼吸検知は、FDAの枠組みでこの翻訳をやった例でした。
医療機器の承認とは、消費者の数字を医療の言葉に翻訳する作業でもあるのだと思います。
日本でも健康アプリやウェアラブルは広がり、7月に書いた厚労省のU.E.N.O.Planにはライフログデータの活用が入りました。
ただ、診察室で患者さんがスマホの画面を見せてくれたとき、その数字をどう扱うかの共通の基準は日本の医療にもまだありません。
デバイスを作る側は医療の言葉への翻訳を、医療の側は受け取り方の型という、この両側の整備が、ウェアラブルを医療の道具にする条件だと思っています。
<今日のまとめ>
JAMAに、ウェアラブルのデータを「意義不明の結果」と名づけ、診療でどう扱うかの枠組みを示す論考が出ました。
米国ではウェアラブル利用者が成人の41.1%に増えた一方、実際に医師とデータを共有する人は2割弱です。
いまの機器の数字は、使い続けたくなることに最適化されていて、診療に役立つこととは別物です。
次の競争は、センサーの精度ではなく「医師が行動できる情報への翻訳」に移っていくと考えています。
<編集後記>
外来で患者さんがウェアラブルの画面を見せてくれる場面は、本当に増えています。
うれしい変化ですが、同時にこの数字にどう責任を持って答えるかは、医師の側の新しい課題だとも感じます。
測る技術は先に走り、受け取る医療が追いかけているという、この夏書いてきた医療AIと同じ構図がウェアラブルデバイス上でも起きています。
両方につなげていけるような仕事を、これからも考えていきたいと思います。
あと、ここで一つ、お知らせがあります。
来月9月12日(土)に開催する日本ヘルスケアイノベーション学会(JHIS)第2回学術大会は、「医学生をはじめ医療系の学生のみなさん」の参加が無料になりました。
自分が学生の頃、政策や経営の第一線の話を生で聞ける場はほとんどありませんでした。
次の医療を作っていく学生のみなさんにこそ、この学会の場を大いに使ってほしいと思っています。
学生のみなさんは、ぜひ友達同士で誘い合って来てください。
そして大人のみなさんも、お子さんが医療系で学んでいる方、大学で学生を教えている方など、周りに学生さんがいたら、ぜひこの機会を共有してあげてください。
当日は、元厚生労働大臣の塩崎恭久先生、東京大学名誉教授の渋谷健司先生、メディカル・データ・ビジョンの中村正樹社長が基調講演に立ち、教育講演では政策、イノベーション、テクノロジーを一つずつ掘り下げます。
今日書いたような、テクノロジーと医療の境界の話を議論するには、これ以上ない顔ぶれです。
■日本ヘルスケアイノベーション学会 第2回学術大会
・日時:2026年9月12日(土)14:00〜17:00(13:30受付開始、17:30〜希望者で懇親会)
・会場:一橋講堂(東京都千代田区一ツ橋2-1-2)
・お申し込みはこちら
https://peatix.com/event/5142278
社会人の方も、初年度は年会費でのご入会で学術大会の参加費はかかりません(懇親会は別途です)。9月、一橋講堂でお会いしましょう!!
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
加藤浩晃
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■ 新刊のご案内
『0次予防から始まる健康国家戦略 :2040年における医療の未来予想図』(発売中!)
病気を治す医療から、病気が起こりにくい社会を設計する医療へ。2040年、そして2100年に向けた、医療の再設計の全体像を描きました。ぜひ読んでください!!お願いします!!!!
◆ https://www.amazon.co.jp/dp/4779229693/
あとこちらは、自分のための趣味(アンチエイジング、ロンジェビティ)として作った本です。
『世界最先端の研究が教える新事実 疲労回復学BEST100』(2026年7月発売)
◆ https://amzn.asia/d/0g9h4NxZ
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■ 発行人プロフィール
加藤 浩晃(かとう・ひろあき)
医師、経営者、ヘルスケアイノベーション研究者。
デジタルハリウッド大学大学院特任教授、東京科学大学医学部臨床教授、東京大学応用資本市場研究センターフェロー、アイリス株式会社共同創業者・取締役副社長CSO、日本ヘルスケアイノベーション学会理事長。一橋大学MBA、経営学・イノベーション領域の博士後期課程。元厚生労働省室長補佐。アイリス株式会社共同創業者・副社長として、日本初のAI搭載新医療機器「nodoca」の保険適用・社会実装に携わる。2017年から10年にわたりヘルスケアビジネス領域の経営者や新規事業者向けコミュニティ「ヘルスケアビジネス研究会」を主宰。著書に『医療4.0』『医療×起業』『医療と算盤』『デジタルヘルストレンド』ほか監修含め40冊以上。日本抗加齢医学専門医・評議員、日本メンズヘルス医学会理事・テストステロン治療認定医、日本美容内科学会評議員、日本眼科学会眼科専門医、日本健康経営専門医機構顧問・健康経営専門医など。
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■ 加藤浩晃のヘルスケアイノベーション通信
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睡眠スコアなど患者さんが持参するデータを「意義不明の結果」と位置づけ、「消費者が毎日見たくなる数字」と「医師が治療判断を変えるための情報」は別物だという指摘にすごく納得しました。データ量が増えても介入基準や偽陽性率が分からなければ診療で扱えないという構造は、診察室での戸惑いを的確に言い当てていますね。